認知症の財産管理に備えた「家族信託」ってどんなもの?

2018.12.07 (更新日:2018.12.18)
日本では認知症患者が年々増加傾向にあります。認知症を発症すると、ご自身の資産が凍結状態になってしまいます。そこで、認知症患者の財産を守る方法として「成年後見制度」や「家族信託」が注目されつつあります。今回はファイナンシャルプランナーで家族信託コーディネーターの平原直樹(所属:ブロードマインド株式会社)が、家族信託の制度について解説いたします。
■家族信託ってどんなもの?
家族信託についてみていく前に、そもそも「信託」とはどういう意味なのか?を確認していきましょう。信託とはその名の通り「(財産を)信じて託す」ことを意味します。たとえば、ファンドマネージャーに運用を託すのが投資信託ですよね。また、信じて託された財産を管理・運用する銀行が信託銀行です。
なお、信託銀行のように、信託業の免許を持った営利目的の企業に託す信託を商事信託といいます。一方、営利目的ではなく、信託業の免許を持たない人に任せることを民事信託といいます。家族信託は信頼する(信託業の免許がない)家族や親族に財産を託す制度であるため、民事信託の一種というわけですね。
それでは、家族信託の仕組みについてみていきましょう。まず、家族信託における登場人物は以下の通りです。
・委託者:財産の所有者で、家族に財産管理を委ねる人
・受託者:委託者から管理・運用を任せられた人
・受益者:受託者の管理・運用によって利益を受け取る人
この3者間において、信託する財産などを公正証書で契約します。
たとえば、「収益物件(※)」を持つ「親」が、「子」に管理を任せる場合を考えてみましょう。この場合、信託財産は親が持っている「収益物件」となります。そして、委託者である親に代わって、実際の入居者との賃貸契約などを行う「子」が受託者となります。一方、その収益である家賃は親の物となるため、受益者は「親」となるわけです。このように、委託者と受益者は同一人物になることが一般的といえるでしょう。
※収益物件:毎月一定の賃金収入のある賃貸アパートや賃貸マンション、投資した不動産の家賃収入から収益を得る目的で購入した物件のこと
さて、上記の場合、収益物件ということで不動産所得が発生するわけですが、税務的にはどういう扱いになるのでしょうか?
実際の管理業務などは受託者である子がするものの、収益は引き続き親が受け取ることになります。つまり、委託者=受益者という形で家族信託を組んだ場合、税務的には特段影響を受けないということです。では、不動産所得に対する課税はどうなるかというと、親がご自身で管理していた時と同様に、受益者である親の所得税の対象となります。
ただし、委託者と受益者が異なる場合は、委託者から受益者への贈与という扱いになるため受益者に贈与税が課されます。また、委託者が死亡した場合には、その信託財産は通常の相続財産として扱われるため、受益者に相続税が課されることになります。
■家族信託で任せる財産に制限はあるの?
さて、家族信託を組むにあたって、任せる財産に制限はあるのでしょうか?
基本的に、委託者と受託者とで信託内容を決定するので制限はありません。とはいえ、預金・不動産・未上場株式の3点が一般的です。また、全財産を信託することも可能ですし、「自宅のみ」「現金1,000万円だけ」など、一部の財産だけを信託することも可能です。
では、上場株式や投資信託などはどうなのでしょうか?
じつは、信託財産として受託者が上場株式や投資信託の運用を行うことを認めている金融機関はほとんどありません。そのため、運用商品を受託者が引き続き運用していくというのは、現状難しい状況です。
ちなみに、委託者(親)がすでに意思判断能力を失っている場合は、家族信託を組むことはできません。
■家族信託の良いところ
それでは、家族信託の良いところはどのような点にあるのでしょうか?
前述の通り、信託財産として登録した財産は、委託者に代わって受託者が管理・運用をすることが可能です。ということは、認知症を発症する前に親子で家族信託を組むことで、受託者である子が委託者である親に代わってお金を引き出したり、家を売却したりと、いざ認知症を発症した際の資産の凍結を防ぐことができるというわけです。そのため、たとえば認知症を発症し、介護施設に入ることになった際の費用などにも充てることができるというわけですね。
ただし、注意すべき点もあるので預金を例に考えてみたいと思います。預金を信託財産として家族信託を組んだ場合、受託者である子はその預金を引き出すことができます。とはいえ、当然受益者である親のために使うお金ですので、子自身の生活費などに使うことはできません。そのため、不正を防ぐ意味も込めて、信託財産は受託者自身の財産と分けて管理(分別管理)する必要があるという点に留意してください。
預金でいうと、家族信託専用の別の口座を用意する必要があるということで、まず検討することは信託口口座の開設です。これは、「委託者 親 受託者 子 信託口」が名義となるまさに家族信託のための口座のことです。ただし、現状ではすべての金融機関が対応してくれるわけではありません。お近くの金融機関が信託口口座の対応をしてくれない場合は、受託者名義の別口座を開設し、それを家族信託専用の口座として現金を移すようにしてください。
また、家族信託は相続時の遺言としての機能もあります。通常の遺言と異なるのは、二次相続にも活用できるという点です。たとえば、父・母・兄・弟の4人家族の場合を考えてみましょう。父が相続時のために遺言を用意したとします。この遺言が効力を発揮するのは、当然ですが父の死亡時となります。よって、父の後に母が死亡した場合、その遺言は効力がありません。そのため、親子の代替わりの相続対策として、遺言は完全とはいえないわけです。
一方、家族信託の場合、代替わりの二次相続にも対応することができます。どういうことかというと、①父の死亡後は自宅を母へ、②母の死亡後は自宅を長男へというように、相続財産の指定ができるということです。もちろん、父の死亡後に母が別途遺言を書けば同じことができますが、同じように遺言を書いてくれるという保証はありません。また、すでに配偶者に意思判断能力がない場合などは、そもそも遺言を書いてもらうことはできませんよね。こんなケースでも家族信託を活用すれば、親子の代替わりに対応した遺言としての効力を発揮してくれるというわけです。
これは、子なし夫婦の場合にも活用できます。たとえば、夫側の実家に住む子なし夫婦がいたとします。夫の死亡後、自宅を含めた財産は妻に渡ることになりますが、妻の死亡後はどうなるのでしょうか?当然「妻の」相続財産ということになりますので、妻側の親族に相続されることになります。つまり、夫側の実家が妻側の親族に渡るということですね。しかし家族信託であれば、夫側に甥や姪などがおりそちらに渡したいという場合も、先ほどと同様の方法で対応が可能というわけです。
なお、収益物件の相続にも家族信託は有用です。では、親の収益物件を兄弟が共有で相続するケースを考えてみましょう。相続から時間がたって、建物が老朽化により入居率が下がってきたとします。当然、大規模な修繕や売却などが検討されますが、共同名義の場合は全員の同意が必要です。しかし、兄弟間が不仲の場合、全員の同意を得るのに苦労するかもしれません・・・。また、兄弟の関係が良好でも、誰かが意思判断能力をなくしてしまった場合も同様です。
家族信託であれば、このような場合でも実際の管理権限を兄弟の誰か一人に設定し、家賃収入の受益権だけを共有するといったことが可能です。つまり、受託者を兄弟の一人に設定し、受益権を兄弟間で共有するということですね。これにより管理業務に支障が出ない収益不動産の相続ができるというわけです。
いかがでしたでしょうか?高齢化が進むにつれて、認知症による財産管理のリスクはますます高まってきています。いざ認知症になってしまってからでは遅いため、この機会にまずはご家族間で話し合ってみてはいかがでしょうか。
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ブロードマインド株式会社
執筆者:平原 直樹
財産形成や退職金運用といったお金の殖やし方を多くの方に伝えるべく、日本全国で年間100件を超えるセミナーを開催。最近では、高齢者の財産管理手法として、家族信託を広めるべく活動中。

■保有資格
・IFA(証券外務員一種)
・TLC(生命保険協会認定FP)
・2級FP技能士
・家族信託コーディネーター
・旅行業務取扱主任者

■得意分野
資産運用、ライフプラン、保険全般、住宅ローン、相続、家族信託

■実績
マネーセミナー:年間100回以上開催
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